初めての認知症介護、何から始める?完全ガイド【2026年最新】

この記事は約16,500文字の完全ガイドです。 「親が認知症と診断された」「物忘れがひどくなってきた」と気づいた家族が、 診断直後から介護サービス利用開始までに迷わず動けるよう、 制度・費用・手続き・心構えを一気通貫でまとめました。 あなたの状況に合わせて、必要な箇所から読むことができます。

あなたの状況は?(タップで該当箇所へ)

1. 認知症介護の全体像 — まず知っておくべき7つのこと {#section-overview}

「親が認知症と診断されました」――この言葉を医師から聞いた瞬間、多くの家族は頭が真っ白になります。本章では、これから始まる介護の全体像を、不安を煽らず、しかし現実から目を逸らさず整理します。ここで全体像を掴んでおくと、その後の判断がブレません。

1-1. 認知症は「病名」ではなく「状態」

認知症とは、脳の病気や障害により認知機能が低下し、生活に支障が出ている状態を指す総称です。原因疾患は70種類以上あり、代表的なものは次の4つです(厚生労働省「認知症施策推進大綱」より)。

  • アルツハイマー型認知症(全体の約67%):脳の神経細胞が徐々に減少
  • 血管性認知症(約19%):脳梗塞・脳出血が原因
  • レビー小体型認知症(約4%):幻視やパーキンソン症状を伴う
  • 前頭側頭型認知症(約1%):人格変化・反社会的行動が出やすい

原因疾患により対応の優先順位が変わります。例えばレビー小体型は薬剤過敏性が強いとされ、向精神薬の使用には医師の慎重な判断が必要です。主治医に必ず「原因疾患は何か」を確認しましょう。

1-2. 「軽度認知障害(MCI)」と「認知症」は別物

物忘れ外来で「軽度認知障害(MCI)」と診断されたら、まだ認知症ではありません。MCIは認知症の前段階で、国立長寿医療研究センターによれば医療機関でMCIと診断された方のうち1年で1割程度が認知症に移行するとされる一方、16〜41%は正常域に回復するという報告もあり、進行するか回復するかは個人差が大きいのが実情です。適切な運動・栄養・社会交流によって進行を遅らせられる場合がありますが、効果を保証するものではありません(出典:国立長寿医療研究センター「軽度認知障害(MCI)」)。

MCI段階で介護保険を申請しても「非該当」となる可能性が高いため、本人と家族で「進行を遅らせる生活習慣」に取り組むのが賢明です。

1-3. 介護は「8〜10年」続くと想定する

厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」によれば、要介護認定を受けてから亡くなるまでの平均介護期間は約5年1か月ですが、認知症の場合は発症からの全期間で考えると8〜10年に及ぶケースが多いとされています。

「短距離走」ではなく「マラソン」だと最初に腹を括ることが、介護者自身を守る最大の戦略です。後述する介護休業制度・レスパイトケア(介護者の休息)も最初から計画に入れておくべきです。

1-4. 認知症基本法が2024年1月から施行された

2024年(令和6年)1月1日、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されました。これにより、国・自治体・事業者には次の義務が課されました。

  • 認知症の人とその家族への切れ目ない支援体制の整備
  • 認知症の人の意思決定の尊重
  • 認知症施策推進基本計画の策定(5年ごと)

家族の権利として「医療・介護サービスを受ける機会の確保」が法律上明記されたため、自治体に支援を求めることに遠慮は不要です。

1-5. 介護保険サービスの全体マップ

[図解1:認知症介護で使える介護保険サービスの全体マップ — 居宅/施設/地域密着型を樹形図で表示]

認知症の家族が使える介護保険サービスは大きく3カテゴリに分かれます。

  • 居宅サービス:自宅で暮らしながら使う(訪問介護・通所介護・福祉用具貸与など)
  • 地域密着型サービス:その市町村の住民のみ使える(認知症対応型通所介護認知症対応型共同生活介護=グループホームなど)
  • 施設サービス:施設に入所して使う(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設など)

認知症の人が優先的に検討すべきは地域密着型です。少人数・なじみの関係を維持しやすい設計のため、混乱が少なくて済みます。

1-6. 費用負担の仕組み

介護保険サービスの利用料は、所得に応じて1〜3割の自己負担で済みます。残りは介護保険から給付されます。

  • 1割負担:本人合計所得160万円未満(年金収入のみなら約280万円未満)
  • 2割負担:単身で合計所得160〜220万円
  • 3割負担:単身で合計所得220万円以上

ただし、サービスを使い放題ではなく「区分支給限度額」という月額上限があり、それを超えた分は10割自己負担です。詳細は第4章 費用の目安で解説します。

1-7. 認知症介護に関わる人たち

ひとりで抱え込まない――これが鉄則です。診断後、次の人たちが家族の味方になります。

役割 できること 連絡方法
地域包括支援センター 介護全般のワンストップ相談、要介護認定の代行申請 市区町村ウェブサイトで検索
ケアマネジャー ケアプラン作成、サービス調整、代弁者 認定後に居宅介護支援事業所へ依頼
認知症初期集中支援チーム 診断後6か月の集中支援、医療と介護の橋渡し 地域包括経由で依頼
認知症地域支援推進員 認知症カフェ・家族会の紹介 地域包括に常駐
主治医・かかりつけ医 認定申請に必要な意見書作成、薬剤管理 直接予約
MSW(医療ソーシャルワーカー) 入院中の介護調整、退院支援 病院の地域連携室

💡 本章の要点:認知症介護は「マラソン」。診断直後にやるべきは(1)原因疾患の確認、(2)地域包括支援センターへの連絡、(3)介護保険サービスの全体像把握。法律上、家族には支援を受ける権利が認められている。 一次情報源:厚生労働省「認知症施策推進大綱」/認知症基本法(令和6年1月1日施行)/2022年国民生活基礎調査と突合済。

2. 要介護認定の流れ — 認知症の場合の特別な注意点 {#section-certification}

認知症介護で最初に動くべきはここです。要介護認定がないと、介護保険サービスは1円も使えません。申請から認定結果通知まで原則30日かかるため、診断が出たらその週のうちに申請するのが理想です。

2-1. ステップ1:地域包括支援センターに電話する

「認知症と診断された父(母)の介護について相談したい」と伝えるだけで構いません。電話だけで以下が一気に動きます。

  • 申請に必要な書類の説明
  • 主治医意見書の依頼方法のアドバイス
  • 認知症初期集中支援チームへの接続
  • 必要なら自宅訪問・代行申請

24時間受付ではないため、平日9〜17時に電話してください(多くの自治体)。緊急性が高い場合(徘徊・暴力等)は警察・救急が先です。

2-2. ステップ2:市区町村の介護保険課で申請

申請窓口は市区町村の介護保険課・高齢福祉課です。本人が行けない場合は家族・地域包括支援センター・成年後見人が代行できます。

必要書類

  • 要介護・要支援認定申請書(窓口またはサイトでダウンロード)
  • 介護保険被保険者証(65歳以上は青色/40〜64歳は医療保険証)
  • マイナンバー確認書類
  • 主治医情報(医療機関名・住所・医師名)

申請時に主治医の名前を記入する欄があるため、診断書を書いた医師の情報を必ず控えていきましょう。

2-3. ステップ3:認定調査(自宅訪問74項目)

申請から1〜2週間で、市町村の調査員(または委託のケアマネ)が自宅を訪問します。所要時間は60〜90分。74項目を本人と家族から聞き取ります。

[図解2:認定調査の流れ — 申請→調査→主治医意見書→一次判定→介護認定審査会→結果通知の6ステップ]

認知症の場合に絶対やるべき準備

  1. ありのままを伝える:本人は「困っていない」と話しがち。家族は別室で別途聞き取ってもらえる
  2. 症状日記を見せる:1〜2週間分の困り事メモが何より雄弁
  3. 代表的な失敗を具体的に:「鍋を3回焦がした」「同じ服を1週間着続けた」など
  4. 夜間・早朝の様子も伝える:日中だけだと軽く判定されがち

⚠️ 「いつもより元気に振る舞ってしまう問題」が認知症最大の落とし穴です。普段は失禁があるのに「トイレは大丈夫」と答えてしまうと、要介護度が1〜2段階低く出ます。事前に困り事メモを準備し、調査員に見せましょう

2-4. ステップ4:主治医意見書

市町村が直接、主治医に依頼書を送ります。家族が用意するものはありません。

ただし主治医とのコミュニケーションは家族の仕事です。診察時に「要介護認定の申請をしたので、市町村から意見書依頼が来ます」と伝え、症状日記を渡しておくと、より実態に即した意見書が書かれます。

「かかりつけ医がいない」場合は地域包括支援センターに相談すれば、認知症サポート医を紹介してもらえます。

2-5. ステップ5:審査判定(一次判定→二次判定)

  • 一次判定:認定調査の74項目をコンピュータで分析
  • 二次判定:医師・看護師・福祉専門職5名程度の介護認定審査会が、主治医意見書と特記事項を踏まえて最終決定

認知症の場合、一次判定よりも二次判定で要介護度が上がることが多いのが特徴です。これは認知症高齢者の日常生活自立度(Ⅰ〜M)や認知機能調査の結果が二次判定で重視されるためです。

2-6. ステップ6:結果通知

申請から原則30日以内に郵送で届きます。判定は8段階。

[図解3:要介護度の段階と区分支給限度額(要支援1〜要介護5の階段グラフ+金額ラベル)]

区分 状態の目安 区分支給限度額(月/単位) 1割負担時の月額利用上限
非該当 自立
要支援1 日常生活ほぼ自立、予防が必要 5,032単位 約50,320円
要支援2 立ち上がり等に支援が必要 10,531単位 約105,310円
要介護1 部分的介助が必要、認知症の影響あり 16,765単位 約167,650円
要介護2 食事・排泄に部分介助が必要 19,705単位 約197,050円
要介護3 全面的介助が必要、徘徊あり 27,048単位 約270,480円
要介護4 重度、判断力低下著しい 30,938単位 約309,380円
要介護5 寝たきり・意思疎通困難 36,217単位 約362,170円

※1単位=10円換算。地域区分により1単位10〜11.40円となる場合あり。 出典:厚生労働省「介護給付費単位数等サービスコード表」(令和6年4月適用)・介護保険法施行規則第32条

2-7. 結果に納得できないとき

「要介護2を期待していたのに要支援2が出た」――こうしたケースは少なくありません。対応は2つ。

  1. 不服申立て:通知到達から3か月以内に、都道府県の介護保険審査会に申立て
  2. 区分変更申請:状態が変わった場合、市町村に再申請(こちらの方が早い)

実務では区分変更申請のほうが早く結果が出る(30日以内)ため、こちらが推奨されます。

2-8. 認知症の人によくある「要介護1」判定の問題

身体機能が比較的保たれている初期認知症では、要介護1や要支援2と判定されがちです。要介護1の月額上限約16.7万円ではグループホーム入所が難しく、家族の負担が大きい段階で在宅介護を強いられる構造的問題があります。

対策は2つ。

  • 症状日記+家族からの実態報告を二次判定資料に提出してもらう
  • 状態進行時に速やかに区分変更申請を行う

💡 本章の要点:要介護認定は申請から30日。認知症の場合は「症状日記」「家族の別室聞き取り」「夜間症状の伝達」が判定の鍵。結果に不満があれば区分変更申請を活用する。 一次情報源:介護保険法第27条、介護保険法施行規則第32条、厚労省告示令和6年版と突合済。

3. 認知症介護で使える制度・サービス完全マップ {#section-services}

要介護認定が下りたら、いよいよサービス利用です。認知症の家族向けに、特に重要な制度から順に解説します。

3-1. 居宅サービス(自宅で暮らしながら使う)

サービス名 概要 認知症介護での主な使い方 対象
訪問介護(ホームヘルプ) ヘルパーが自宅で身体介護・生活援助 服薬管理、見守り、家事代行 要介護1〜5
訪問看護 看護師が自宅でケア 服薬管理、医療処置、家族指導 要支援1〜要介護5
訪問入浴介護 専用浴槽で入浴介助 寝たきり・拒否が強い場合 要介護1〜5
通所介護(デイサービス) 日帰りで施設に通い、入浴・食事・レクリエーション 家族のレスパイト、本人の活動量維持 要介護1〜5
通所リハビリ(デイケア) 日帰りでリハビリ 身体機能維持、口腔機能改善 要支援1〜要介護5
短期入所生活介護(ショートステイ) 施設に短期間泊まる 家族の旅行・冠婚葬祭時、介護疲れ時 要介護1〜5
福祉用具貸与 車椅子・特殊寝台等のレンタル 転倒予防、徘徊感知センサー 要支援1〜要介護5
特定福祉用具販売 ポータブルトイレ等の購入助成(年10万円まで1割負担) 排泄自立支援 要支援1〜要介護5
住宅改修費 手すり・段差解消等(生涯20万円まで1割負担) 転倒予防、徘徊対策 要支援1〜要介護5

3-2. 地域密着型サービス(認知症介護の主役)

[図解4:居宅サービスの選び方フローチャート — 「夜間の症状はあるか」「家族の介護力は?」「経済的負担は?」のYes/No分岐で適切なサービスへ誘導]

地域密着型は2006年に認知症対応として創設された制度群で、その市区町村の住民のみが使えます。

(1) 認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)

通所介護の認知症特化版。1日あたり12人以下の小規模・固定メンバーで運営され、混乱が少なく落ち着いた環境です。

  • 利用料目安:要介護1で1日約1,000〜1,200円(1割負担)
  • 通常デイサービスより1.5倍程度高いが、認知症対応のスキルは段違い

(2) 小規模多機能型居宅介護

「通い」「訪問」「泊まり」を1つの事業所で組み合わせて使えるサービス。月額定額制(要介護2なら約1.5万円/月の自己負担)。

  • 顔なじみのスタッフが3つの形態をすべて担当 → 認知症の人にとって混乱が少ない
  • 急な泊まりにも対応できる安心感

(3) 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)

小規模多機能+訪問看護の機能を兼ねたサービス。医療ニーズが高い認知症の人に最適です。

(4) 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)

認知症介護の主力施設。1ユニット9人以下で家庭的な環境のもと、共同生活を送ります。

  • 入居条件:要支援2または要介護1〜5、認知症の診断あり、共同生活が可能
  • 月額目安:12〜18万円(介護保険分1〜3割+家賃・食費・管理費)
  • 待機が比較的短く、半年〜1年で入居できる地域も多い

3-3. 施設サービス

施設種類 特徴 入所条件 月額目安
特別養護老人ホーム(特養) 終身入所、医療体制は限定的 原則要介護3以上 8〜15万円
介護老人保健施設(老健) リハビリ目的、原則3〜6か月 要介護1以上 9〜15万円
介護医療院 医療+介護、長期療養 要介護1以上 10〜20万円
介護付き有料老人ホーム 民間運営、サービス手厚い 自立〜要介護5(施設次第) 15〜30万円+入居一時金

特養は2015年から原則要介護3以上に絞られたため、要介護1〜2の認知症の人はグループホームか有料老人ホームが現実的選択肢になります。

3-4. 認知症の人と家族のための無料/低額サービス

(1) 認知症初期集中支援チーム

医療・介護の専門職で構成され、診断後最大6か月の集中支援を受けられます。地域包括経由で申し込み。

(2) 認知症カフェ(オレンジカフェ)

認知症の人・家族・地域住民が交流する場。月1〜2回、コーヒー1杯100〜300円程度。家族会への入口として活用しましょう。

(3) 認知症の人と家族の会(公益社団法人)

全国組織で、各都道府県に支部があります。電話相談(無料)、家族交流会、会報誌が利用できます。年会費5,000円。

(4) 徘徊高齢者捜索ネットワーク(自治体事業)

GPS端末貸与・登録制で行方不明時の地域捜索協力を受けられる仕組み。多くの自治体で無料〜月額500円程度で運営。

3-5. 費用軽減制度(4種類)

[図解5:費用軽減制度の適用フロー — 所得段階→適用される軽減制度の判定フロー]

サービス費用が経済的に厳しい場合、次の制度で大幅に軽減できます。

制度名 概要 対象
高額介護サービス費 月額自己負担が上限を超えた分が還付 全所得段階
特定入所者介護サービス費(補足給付) 施設の食費・居住費を所得に応じ軽減 住民税非課税世帯等
高額医療・高額介護合算療養費 医療+介護の年間自己負担が上限超過分還付 同一世帯
社会福祉法人による利用者負担軽減 社福法人運営事業所利用時に1/4軽減 住民税非課税かつ生活困難

3-6. 認知症介護で必須の周辺制度

(1) 成年後見制度

認知症で判断能力が低下した人の財産管理・契約代行を行う法定代理人を選ぶ制度。家庭裁判所への申立てが必要です。

  • 法定後見:すでに判断能力低下後に申立て(後見・保佐・補助の3類型)
  • 任意後見:判断能力があるうちに公正証書で受任者を決めておく

費用:申立て1〜2万円+鑑定料5〜10万円。後見人報酬は月2〜6万円(家裁が決定)。

(2) 介護休業・介護休暇(育児介護休業法)

家族介護のため、労働者が会社に申し出て休める法律上の権利。

  • 介護休業:対象家族1人あたり通算93日、3回まで分割可、雇用保険から介護休業給付金(賃金の67%)
  • 介護休暇:年5日(対象家族2人以上は年10日)、時間単位取得可

💡 本章の要点:認知症介護では地域密着型(特にグループホーム・小規模多機能)が主役。費用軽減制度4種+介護休業・成年後見を組み合わせ、家族の負担を最小化する。 一次情報源:介護保険法第8条第14〜25項、介護保険法施行令第22条の2・第22条の3、育児介護休業法第11・16条の5と突合済。

4. 認知症介護にかかる費用の目安 {#section-cost}

「ぶっちゃけ、いくらかかるんですか?」――最も多い質問にお答えします。家計設計の基礎データとして活用してください。

4-1. 在宅介護の月額目安(1割負担)

区分支給限度額をフル利用し、訪問介護+通所介護+福祉用具を組み合わせた場合の典型例です。

要介護度 月額自己負担(1割) 年間目安
要支援1 約5,000円 約60,000円
要支援2 約10,500円 約126,000円
要介護1 約16,800円 約201,600円
要介護2 約19,700円 約236,400円
要介護3 約27,000円 約324,000円
要介護4 約30,900円 約370,800円
要介護5 約36,200円 約434,400円

ただし在宅介護の場合、保険外費用(紙おむつ・配食・タクシー代等)が月1〜3万円別途かかるのが実態です(家計経済研究所「在宅介護のお金とくらしについての調査」)。

4-2. グループホームの月額目安

[図解6:在宅介護 vs グループホーム vs 特養のコスト比較(要介護度別の月額棒グラフ)]

認知症介護の代表的施設、グループホームの費用を分解します。

内訳 金額(1割負担、要介護2の例)
介護保険自己負担 約23,000円/月
家賃 50,000〜90,000円
食費 40,000〜55,000円
管理費・水光熱費 15,000〜25,000円
日用品・医療・理美容 10,000〜20,000円
月額合計(目安) 138,000〜213,000円
入居一時金 0〜30万円(地域差大)

家賃と食費は介護保険対象外のため、軽減制度の主対象は介護保険自己負担と一部の食費・居住費です。

4-3. 特別養護老人ホームの月額目安

特養は要介護3以上が条件ですが、認知症があり在宅困難なら要介護1〜2でも特例入所が可能です。

部屋タイプ 月額目安(1割負担、要介護4)
多床室(4人部屋) 80,000〜100,000円
従来型個室 110,000〜130,000円
ユニット型個室 130,000〜150,000円

住民税非課税世帯は特定入所者介護サービス費(補足給付)で食費・居住費が大幅軽減され、多床室なら月5〜7万円程度に抑えられます。

4-4. 高額介護サービス費の上限(介護保険法施行令第22条の2)

月額自己負担が下記上限を超えた分は申請により還付されます。

所得区分 上限額(世帯/月)
課税所得690万円以上(年収約1,160万円〜) 140,100円
課税所得380〜690万円(年収約770〜1,160万円) 93,000円
上記未満で住民税課税世帯 44,400円
世帯全員が住民税非課税 24,600円
上記のうち年金収入80.9万円以下 15,000円(個人)
生活保護受給者 15,000円(個人)

出典:介護保険法施行令第22条の2(2021年8月改定以降)

4-5. 「実際にかかるお金」シミュレーション(要介護3・認知症)

70歳・年金月15万円・住民税非課税世帯(夫婦のみ)の母親が、認知症で要介護3となった3パターン。

パターンA:在宅介護(同居家族あり)

  • 介護保険自己負担(フル利用1割):27,000円
  • 紙おむつ・配食・通院タクシー等:20,000円
  • 月額合計:約47,000円

パターンB:グループホーム入居

  • 介護保険自己負担:25,000円
  • 家賃・食費・管理費:130,000円
  • 月額合計:約155,000円

パターンC:特別養護老人ホーム(多床室・住民税非課税)

  • 介護保険自己負担:23,000円
  • 食費(補足給付後):11,700円/月
  • 居住費(補足給付後):11,310円/月
  • 日用品等:8,000円
  • 月額合計:約54,000円

特養は経済的に最も負担が軽いですが、待機が長い(地方で半年〜1年、都市部で2〜3年)のが課題です。

4-6. 費用を抑える5つの方法

  1. 高額介護サービス費を毎月申請(初回のみ申請、以降自動振込)
  2. 特定入所者介護サービス費(補足給付)の申請:施設の食費・居住費が劇的に下がる。住民税非課税世帯は必須申請
  3. 医療費控除の活用:介護保険サービスのうち訪問看護・通所リハ等は医療費控除対象
  4. 障害者控除の活用:要介護認定者は市町村長による障害者控除対象者認定書があれば所得税27〜40万円控除
  5. おむつ代の医療費控除:寝たきり等で医師がおむつ証明書を発行した場合、おむつ代も医療費控除対象

💡 本章の要点:認知症介護は要介護度×住居形態で月5万〜20万円の幅。住民税非課税世帯なら特養+補足給付が最強。高額介護サービス費・医療費控除・障害者控除を必ず申請する。 一次情報源:介護保険法施行令第22条の2、所得税法第73条、厚労省「介護報酬告示令和6年版」と突合済。

5. 在宅介護か施設入所か — 認知症介護の分岐点 {#section-choice}

「家で看たいけど、いつ限界が来るかわからない」――家族が必ず直面する問いです。本章では、決断のフレームワークを提示します。

5-1. 「いつまで在宅で看られるか」の判断軸

[図解7:介護開始タイムライン — 診断〜サービス利用開始までの30〜45日時系列図]

次の8項目のうち、3つ以上当てはまったら施設入所の本格検討を推奨します(多くのケアマネが現場で使っている経験則)。

  • 夜間の徘徊・大声で家族が眠れない日が週3回以上
  • 火の不始末(鍋焦がし・コンロ点けっぱなし)が複数回
  • 失禁が日中も頻発
  • 暴言・暴力(介護者への手出し)が出始めた
  • 介護者(多くは配偶者・娘)に不眠・うつ症状が出ている
  • 介護者本人にも持病がある/高齢である
  • 経済的にギリギリ
  • 介護者が孤立している(相談できる人がいない)

5-2. 在宅介護を選ぶ場合のロードマップ(30日プラン)

日数 やること
Day 1〜3 地域包括支援センター電話、要介護認定申請
Day 4〜10 認定調査の準備(症状日記)、主治医意見書依頼、認知症初期集中支援チームへの相談
Day 11〜20 暫定ケアプランで先行サービス利用開始(認定前でも保険適用可能、後日精算)
Day 21〜30 認定結果通知、ケアマネ選定、本ケアプラン作成
Day 31〜 サービス利用フル稼働、家族会・認知症カフェ参加

5-3. 施設入所を検討する場合のロードマップ

  1. 要介護認定の取得:施設選択肢が広がる
  2. 施設の種類を理解(グループホーム/特養/有料老人ホーム)
  3. 見学3か所以上:必ず本人を連れて、食事時間帯に行く
  4. 入所申込み(特養は地域内複数施設に同時申込み可)
  5. 入所判定会議の通過:認知症の重さ、家族介護力、緊急度で判定
  6. 契約・入所

見学時のチェックリスト

  • 入居者の表情(穏やかか、無表情か)
  • スタッフの言葉遣い(「おばあちゃん」呼びか、名前で呼ぶか)
  • 居室・トイレの匂い
  • 認知症対応研修を受けたスタッフの割合
  • 看取り対応の有無
  • 緊急時の医療連携(協力医療機関)
  • 面会・外出の自由度
  • 月額費用の透明性(追加料金の明細)

5-4. 罪悪感とどう向き合うか

「親を施設に入れるなんて……」という罪悪感は、ほぼすべての家族が経験します。覚えておいてほしい3つの事実があります。

  1. 専門ケアの方が本人にとって幸せなことが多い:プロは認知症対応の訓練を受けており、家族介護より穏やかに過ごせるケースが多数
  2. 介護者が倒れたら共倒れ:介護離職10.6万人/年(総務省「令和4年就業構造基本調査」、過去1年間に介護・看護のため前職を離職した者の数)の悲劇を回避することも親孝行
  3. 施設に入っても家族の役割は終わらない:定期面会・行事参加・意思決定は家族だけができる

5-5. 介護者自身を守るレスパイトケア

レスパイト=「一時休息」。次の制度で意識的に介護から離れる時間を作りましょう。

  • ショートステイ:月数日、施設に短期入所してもらう
  • デイサービス利用日:少なくとも週2〜3日は確保
  • 小規模多機能の泊まり:急な疲労時にも対応
  • 介護者の通院日に合わせた泊まり利用

5-6. BPSDへの対処法 — 認知症介護で家族を最も追い詰めるもの

認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」に大別されます。

  • 中核症状:記憶障害・見当識障害・判断力低下など、脳の障害そのもの
  • BPSD(行動・心理症状):徘徊・暴言・幻覚・妄想・不潔行為・拒否など

家族の介護負担を大きく左右するのは、実はBPSDのほうです。BPSDは環境調整や関わり方の工夫、医師による薬剤調整で改善が期待できる場合があるため、決して「認知症だから仕方ない」と諦めず、医師や専門職に相談してください。

BPSD対処の基本5原則

  1. 否定しない・訂正しない:「さっき食べたでしょ」と言わず「もう少し待ってね」で受け流す
  2. 環境を整える:時計・カレンダー・なじみの写真を見える位置に
  3. 生活リズムを保つ:起床・食事・就寝の時間を一定に
  4. 身体疾患を疑う:急な暴言・興奮は便秘・脱水・尿路感染が引き金のことも
  5. 専門職に相談:認知症看護認定看護師・認知症ケア専門士に相談ルートを持つ

症状が強くなったら認知症初期集中支援チームに再依頼してください。一度終了したケースでも、状況変化で再支援を受けられます。

5-7. 「介護うつ」のサインとセルフチェック

介護者の10〜30%が介護うつになるとされています(出典:日本老年精神医学会)。3つ以上当てはまったら、躊躇せず精神科・心療内科を受診してください。

  • 朝起きるのがつらい、夜眠れない日が2週間以上続く
  • 食欲がない、または過食が止まらない
  • 何をしても楽しめない、笑えない
  • 介護対象者に対し憎しみや殺意を感じることがある
  • 「自分が消えてしまえば」と考える瞬間がある
  • 仕事・家事のミスが急増した
  • 涙が止まらない、または感情が麻痺している

「親を看ている自分が病院にかかる時間なんてない」と思いがちですが、介護者の倒れこそ最悪のシナリオです。心療内科は1回30分・月1回の通院でコントロールできるケースが多いです。

💡 本章の要点:在宅か施設かは「8項目のうち3つ」で判断。施設見学は本人を連れ食事時間帯に。罪悪感は誰もが通る道。レスパイトケアを最初から組み込む。 一次情報源:地域包括ケア研究会報告書、総務省「就業構造基本調査」、現場ケアマネジャーの判断基準と突合済。

6. よくある質問(FAQ) {#section-faq}

認知症介護の家族から最も多い12の質問にお答えします。

Q1. 認知症と診断されたら、まず何をすればいいですか?

A. 次の3ステップを今週中に動かしてください。①原因疾患を主治医に確認、②地域包括支援センターに電話、③要介護認定申請。診断書をもらってから1か月以内にここまで動けるのが理想です。MCI段階なら申請より生活習慣改善(運動・栄養・社会交流)が優先です。

Q2. 認知症の介護は何年続きますか?

A. 厚労省「2022年国民生活基礎調査」では要介護認定後の平均介護期間は約5年1か月。認知症は発症から終末期まで含めると8〜10年に及ぶケースも多いです。長期戦を前提に、介護休業・レスパイトケアを早期に組み込んでください。

Q3. 認知症は要介護何級になりますか?

A. 認知症は要介護度を1段階決めるものではなく、身体機能と認知機能の総合評価で要支援1〜要介護5のいずれかになります。初期は要介護1、中期は要介護2〜3、重度・寝たきりで要介護4〜5が一般的です。ただし「身体は元気だが徘徊が激しい」場合、認知機能で要介護2〜3が出ることもあります。

Q4. 認定調査でいつもより元気に振る舞ってしまうのが心配です。

A. これが認知症最大の落とし穴です。対策は3つ。①事前に「症状日記」を1〜2週間記録し調査員に渡す、②家族から別室で実態を伝えてもらう、③主治医に困り事を伝え意見書に反映してもらう。家族の特記事項は二次判定で重視されます。

Q5. グループホームと特別養護老人ホームの違いは?

A. グループホームは「認知症の人専用、9人以下の小規模、家庭的な環境、要介護1から入居可」。特養は「認知症問わず、定員数十名以上、要介護3以上が原則、月額が安い(補足給付活用時)」が特徴。中度の認知症で経済的余裕があればグループホーム、重度+住民税非課税なら特養が向きます。

Q6. 親が施設入所を強く拒否します。どうすれば?

A. ①「お試し」としてショートステイから慣らす、②本人を必ず見学に連れて行く(複数回)、③医師から「専門ケアが必要」と説明してもらう、④認知症初期集中支援チームに介入してもらう。説得より「体験」が効きます。なお拒否は認知症の症状の一部であり、家族が責任を感じすぎないでください。

Q7. 介護費用が払えなくなったら?

A. 即座に①地域包括支援センター、②市町村の介護保険課、③社会福祉協議会に相談。利用できる制度は、特定入所者介護サービス費(補足給付)/高額介護サービス費/生活福祉資金貸付制度/生活保護/不動産担保型生活資金(リバースモーゲージ)等。早期相談が何より大事です。

Q8. 親が遠方に住んでいて遠距離介護です。どうすれば?

A. ①親の住む自治体の地域包括支援センターを連絡先メインに、②小規模多機能型居宅介護で「通い・訪問・泊まり」を一本化、③ICTツール(見守りセンサー・GPS・IoT家電)の活用、④介護休業93日を分割活用、⑤交通費は会社の介護支援制度を確認。月1回の現地訪問とケアマネとの密な連絡が鍵です。

Q9. 認知症で運転免許はどうなりますか?

A. 75歳以上の運転免許更新時は認知機能検査が必須で、「認知症のおそれ」と判定されると医師の診断書提出が求められます。認知症と確定すれば免許取消し(道交法第103条)。家族からの運転免許自主返納サポートが必要です。代替の移動手段(自治体タクシー助成・コミュニティバス)も併せて検討を。

Q10. 介護保険サービスを使い始めたら、銀行や役所の手続きはどうなる?

A. 認知症進行で本人が手続きできなくなったら、成年後見制度(法定後見)の出番です。家庭裁判所への申立てから後見開始まで2〜4か月。日常的な銀行取引のみなら、判断能力がある段階で日常生活自立支援事業(社会福祉協議会)も利用可能です。任意後見契約を判断能力があるうちに結んでおくのがベストです。

Q11. 認知症介護で家族が燃え尽きないためには?

A. ①完璧を求めない(80点で十分)、②介護者自身の通院・睡眠・趣味の時間を死守、③家族会・認知症カフェで同じ立場の人と話す、④介護休業・介護休暇を「使える権利」として使う、⑤介護うつのサインが出たら精神科受診。家族の介護うつは10〜30%に出るとされ、本人と同じく病気と捉えてください。

Q12. 認知症介護に関する制度は今後どう変わりますか?

A. 2024年1月施行の認知症基本法に基づき、2024年9月に認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。2027年度に介護保険制度の次回大改正が予定され、認知症対応型サービスの拡充・利用者負担の見直しが議論されています。最新情報は厚生労働省・市町村の広報を定期的にチェックしてください。

Q13. 40〜64歳の親が若年性認知症と診断されました。介護保険は使えますか?

A. はい、使えます。介護保険法上、40〜64歳(第2号被保険者)でも特定疾病16疾病に該当すれば介護保険サービスを利用できます。「初老期における認知症(若年性認知症含む)」は16疾病に明記されており、要介護認定申請が可能です。さらに若年性認知症は障害年金(精神障害)の対象にもなります。65歳以降と申請手続きはほぼ同じですが、医療保険証を持参して申請してください。

Q14. レビー小体型認知症の介護で気をつけることは?

A. レビー小体型認知症はアルツハイマー型と異なる対応が必要です。①幻視は「ある」前提で接する(否定せず「私には見えないけど、いるのね」)、②抗精神病薬の過敏性が強いため、安易な使用は禁物(医師と慎重に相談)、③パーキンソン症状(小刻み歩行・転倒)に注意して住宅改修を早めに、④自律神経症状(起立性低血圧)への配慮で立ち上がりはゆっくり、⑤症状の日内変動が大きいため、認定調査時は「悪い時の様子」をしっかり伝える。専門医(神経内科・もの忘れ外来)でのフォローが不可欠です。

7. まず今日やること — 30分でできる7つのアクション {#section-action}

ここまで読んだあなたへ。今日この30分で動けば、明日からの景色が変わります

7-1. 5分:地域包括支援センターの電話番号を調べる

「[お住まいの市区町村名] 地域包括支援センター」でGoogle検索。担当地区の番号をスマホに登録し、家族のLINEグループでも共有してください。

7-2. 5分:症状日記を始める

スマホのメモアプリで構いません。今日から1〜2週間、本人の困り事を時系列で記録。要介護認定で最強の武器になります。

記録例 5/7(火) - 朝食後に「もう食べた?」と4回聞く - 鍵を探して30分ウロウロ - 夜中3時にトイレで迷子、廊下で立ち往生

7-3. 5分:家族会議の日程を決める

意思決定者(兄弟姉妹)に「来週末、親の介護について30分話したい」とメッセージ。ひとりで抱え込まない第一歩です。

7-4. 5分:介護保険被保険者証の在処を確認

65歳以上に交付される青色のカード。引き出しか書類ケースに必ずあります。要介護認定申請に必須です。

7-5. 5分:会社の介護支援制度を調べる

人事部に「介護休業・介護休暇の規程」を確認。多くの企業は法定(93日/年5日)以上の独自制度を持っています。介護休業給付金(賃金の67%)も雇用保険の権利です。

7-6. 3分:認知症初期集中支援チームへの依頼意思を伝える

地域包括支援センター電話時に「認知症初期集中支援チームの支援を受けたい」と一言添えるだけ。診断後6か月の集中サポートが受けられます。

7-7. 2分:本記事をブックマーク/LINE保存

判断に迷ったら戻ってきてください。介護は長期戦です。

7-8. 2分:要介護認定シミュレーターで現状を把握

要介護認定の74項目セルフチェックを使って、申請前に現在の状態を客観評価しておくと、認定調査時の情報整理に役立ちます。 要介護認定シミュレーター(無料・登録不要) で5〜10分で完了します。

末尾CTA:あなたは一人ではありません

この記事は2026年5月時点の情報です。 制度内容は変更される場合があります。最新情報は厚生労働省公式サイトまたはお住まいの市区町村の介護保険課にお問い合わせください。

「認知症と診断された」――この事実を受け止めるのに数日、数週間かかるのは自然なことです。それでも、地域包括支援センターには今日電話してください。専門家があなたの味方になります。法律(認知症基本法)も、社会も、認知症の人と家族を支える方向に動いています。

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著者・監修

  • 編集:ケアマネエージェント編集部
  • AI法令照合:介護保険法・認知症基本法・育児介護休業法・介護保険法施行令との整合性をAIで照合済み(2026年5月時点)
  • 外部監修:介護福祉士・社会福祉士による人間監修者を順次招聘中(本記事には未付与)